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先駆者として

[761/09/16]

 

 あなたが生きてきた空の島々は、全人口を支えるにはあまりにも狭くなってしまった。土地も、食料も、あらゆるものが足りていない。人々の気は立っており、互いが足りないものを求め奪い合い、衝突しているような惨状である。そのような島々で生きる道を選択するか。それとも、広い大地、新たな資源のため、未知の領域である地上へと降り立つ道を選択するか。

 地上は全てが無彩色、昼夜を問わず白い霧に覆われ、水も緑も存在してはいない。それでもあなたが地上へと降り立つ道を選んだのであれば、草花一つ生えていない広大な大地の上、水の張られることのなくなった深き溝の下、もしくは、文明が栄えていたことを彷彿とさせるような廃墟の中に、もはや空の島々には残されていない「未来」を見つけることができるだろう。

 

 しかし、地上へ降り立つにあたって、あなたは一つの手術を行わなくてはならない。それは一般にエリクスの加護と呼ばれ、一部からは侵食と呼ばれるものである。手術自体はそう難しいものではなく、時間もかからなければ、あなたが身体的に大きな苦痛を味わうことはないだろう。あなたの身体には直径3cmほどのエリクス結晶の欠片が埋め込まれるが、その場所をあなたは任意に選ぶことができる。

 地上の環境は空の島々とは大きく異なっており、エリクスの加護なしにはあなたはその空気を吸うこともできない。白い霧はあなたの身体に異常をもたらし、いずれは死に至るか、異形のものと成り果てる。エリクスの加護を受けていれば、あなたは自由に地上を歩き回ることができ、今までの数倍の時間、水や食物を取らなくても生きていられるようになるだろう。

 

 地上へと降り立ったあなた、先駆者の役目は、「未来」、すなわちエリクス結晶を、地上の原住民たるミュルミドから守ることにある。エリクス結晶は地上においてのみ生成される虹色の鉱物生命体であり、電力にも、原子力にも代わるエネルギーを放出する。これらを食するミュルミドを排除し、エリクス結晶を回収、地上での拠点となる船型都市へと持ち帰ることで、あなたの都市はより発展することが可能となる。

 当然、ミュルミドはあなたを自分たちの土地を荒らす敵と見なし、攻撃してくるだろう。これを迎え撃ち、もしくはこちらから攻撃を仕掛け、安全な土地を確保するのも先駆者の役目となる。つまり、その異形なる原住民らとあなたは戦わなくてはならないが、あなたが彼らを恐れる必要はない。あなたにはエリクスの加護があるのだから。

エリクスの加護
共有者

 腕に自信があるというのであれば、あなたは持ち前の武器と技術を使いミュルミドを排除することも出来る。しかし、エリクスの加護はあなたにとって大きな助けとなるだろう。以下のリストは、埋め込まれる欠片ごとに持つ加護の代表例である。

「ムーンストーン」

 夜間の身体能力を著しく向上させる能力

「メタモルフォシス」

 あらゆる物に変身する能力

「ユーディアライト」

 災厄の対象を他者から自分に転換する能力

「ラピスラズリ」

 災厄の対象を自分から他者に転換する能力

「ルビー」

 自分の受けた傷を一瞬で治癒再生する能力

「ロードナイト」

 あらゆるものを逆転させる能力

「トルマリン」

 電気を操る能力

「ネフライト」

 対象が過去に見たものを知る能力

「ピータサイト」

 幻覚を見せる能力

「フローライト」

 狂人化し並外れた敏捷性と破壊力を引き出す能力

「ブラックスター」

 あらゆる光を閉じ込める能力

「ブラッドストーン」

 他の生物の生命力を吸収する能力

「ヘリオドール」

 周囲の者の持つ能力を一時的に使用する能力

「セレスタイト」

 空を飛べる翼と範囲内の天候を操る能力

「タイガーアイ」

 範囲内の全てのものを見通す能力

「ダイヤモンド」

 いかなる災厄からも身を護る能力

「ターコイズ」

 空間移動の能力

「トパーズ」

 対象に起こる未来の出来事を一部知る能力

 

「スピネル」

 攻撃を防ぐシールドを張る能力

「サンストーン」

 日中の身体能力を著しく向上させる能力

「アクアオーラ」

 あらゆる液体を爆発させる能力

「アメジスト」

 他者が受けた傷を治癒する能力

「アゲート」

 相手の五感を奪う能力

「アンバー」

 時間の一部を切り取る能力

「ロードクロサイト」

 最高の幸運と勘が保障される能力

「オパール」

 ゴーレムを作り出す能力

「エメラルド」

 範囲内の時間を止める加速させる能力

「オニキス」

 ウイルスを撒き散らす能力

「カーネリアン」

 範囲内の物質を全て圧縮し潰す能力

「ガーネット」

 対象の重力を操る能力

「サファイヤ」

 攻撃を必中させる能力

「シトリン」

 一時的に対象に認知されなくなる能力

「スフェーン」

 他者を操る能力

「デザートローズ」

 炎を操る能力

「ペリドット」

 音を操る能力

 

 かのような能力をもってして、あなたはミュルミドへと挑むことになる。ミュルミドの姿形は様々で、形容しがたい姿のものから、動物を思わせるもの、時に人間に似た姿をしているものも存在するが、彼らは全てヒトならざるものであり、あなたは彼らの排除の仕方を言及されないため、脅して追い払うも良し、殺してしまっても構わない。

 

 あなたは恐らく、ミュルミドよりも、あなたを守るエリクスの加護そのものを恐れることとなるだろう。普段はあなた自身があなたの意思でもって動かしているその身体だが、能力を使う際には、あなたに埋め込まれる欠片に宿る意思がその身体を扱うこととなる。長い時間、もしくは頻繁に欠片に身体を扱わせていると、次第に立場は逆転し、身体を乗っ取られ、最悪の場合あなたの心すらその身体から消え失せてしまう。

 あなたが未来のために払う代償は、地上へ降り立つことを決心した日から永遠に払われ続けるということだ。

 

 

 あなたがその身体に埋め込まれるエリクス結晶の欠片は一見、ただの鉱石のようにしか見えない。しかしそれは、あなたとは異なる、一つの独立した意思を持っているのである。あなたが手術を経て、エリクスの加護を受けたときから、あなたの身体はその意思と共有することとなる故に、それは共有者と呼ばれている。以下、本項でもそれを共有者と記す。

 

 共有者は能力の使われていないときも、常にあなたと意思の疎通を行うことはできるが、あなたの身体は元々、あなたのものであり、あなたの意思との繋がりのほうが深いため、あなたが平常心である限り、共有者はあなたの身体を勝手に自分の意思で扱うことはできない。あなたが共有者に許可しなければ、共有者はあなたの内で、あなたとのみ対話する存在でしかなく、あなたが共有者に助けを求めれば、共有者はあなたの身体を借り、目の前に立ちふさがるミュルミドを排除する力強い存在となる。とはいえ、共有者が常にあなたに従順であるというわけではないことを、あなたは常に心に留めておかなくてはならない。

 

 共有者の心は、人間とそう変わらないのである。もしあなたが、そのような不自由な生活を強いられたならと想像すれば、共有者が何を望むかを考えるのは容易いだろう。多くの共有者は人間の身体の所有権を欲している。あなたの身体は今、あなたの意思と深く繋がってはいるが、あなたが能力を使えば使うほど、つまりは共有者に自らの身体を貸し渡している時間が長くなるほど、その身体は共有者の意思とも繋がりを深めて行き、あなたの許可なしにもその身体を自分のもののように共有者が扱えるようになってしまう。

 また、あなたが平常心である限り、と先にも述べた通り、共有者はあなたの心が揺れ動いているときであれば、あなたの身体を強制的に乗っ取ることが可能なのである。通常それは、ミュルミドに襲われ危機に陥ったときなど、恐怖のため本能的に、共有者の意思に身を委ねようとするために起こる。そのような場合、恐怖が過ぎ去り落ち着きを取り戻せば、あなたは共有者に自らの身体を返させることが出来るが、問題は、あなたが何かに深く悩み、落ち込み、迷ったときだ。あなたの共有者が、あなたの下にあることを不満に思っているのであれば、そのような心の揺れ動きにも目敏く反応し、あなたの身体を乗っ取ろうとするに違いない。そうしたとき、あなたが平常心を取り戻し、強い意思で持って自らの身体に本来の意思の所在を示せなくては、その身体は共有者のものとなり、あなたは永遠に共有者の下にあり続けるか、もしくは精神ごと喰われ、消えてなくなるかのどちらかとなる。

 

 あなたは共有者と良い関係を築くべきだろう。そうでなくては、あなたはその身体からエリクス結晶の欠片を摘出するまでずっと、自らの内に存在する侵略者との精神的な戦いを昼夜続けなくてはいけなくなる。

 

ギルド

 

 以上の話を受けてなお、地上へと降り立つ道を選択するというのであれば、あなたには所属するギルドを選ぶ権利を与えられる。地上にはすでにいくつかの船型都市が拠点として存在しており、各拠点はギルドと呼ばれる先駆者たちの組織によって管理、運営されている。あなたはギルドに所属しない、フリーの先駆者となることも可能だが、ギルドに所属する先駆者には、各拠点の食料や物資が優先的に支給されるため、特別な理由がないのであればギルドに所属することが推奨されるだろう。現在地上で活躍している有名なギルドは、以下の5つとなる。

 

民間人からも厚い信頼を得ている優秀なギルド『グランドピアノ』。
他のギルドのエリクス結晶を強奪しているギルド『ウィルオウィスプ』。
全てにおいてミュルミド排除数がものを言うギルド『ハンプティ・ダンプティ』。
宴とバカ騒ぎが大好きな自由で賑やかなギルド『AMP』。
規律を重んじる統制のとれたギルド『シルバークロック』。

 

 どのギルドに所属しても、あなたのやるべきことは変わらない。より多くのエリクス結晶を手に入れ、あなたの都市を、そして地上における新たな文明を発展させることがあなたの役割だ。

 

ソロ

 

 決心はついただろうか。あなたが先駆者となり、世界の未来を担うことを、ローマ研究所は大いに喜ぶことだろう。そしてまた僕も、先駆者の一人として、新たな先駆者が生まれることを喜ばしく思う。しかし今の時代、安穏などというものは空にも地上にもありはしない。未知なる地上の解明、そして新たな可能性の発見に僕自身が関われるとは素晴らしいことだと思ってはいるが、同時に、僕は多くの恐怖も感じている。これから先駆者になろうという者に話すことではないのだろう。しかし、一つだけ、あなたの耳にも入れておいてほしいことがある。

 

 既に地上の先駆者の内1割がソロ、つまりは共有者のみの身体となっているというのだ。

 あなたがローマ研究所からこのような説明を受けることはない。先駆者の意思は常に共有者よりも強く、もし心が疲弊したとしても、すぐにエリクス結晶の欠片を摘出できると、彼らはあなたにそう伝えるに違いない。それが事実であるのならば、この状況をどう説明するというのか。地上の開拓が行われはじめてまだ1年しか経っていないというのに、1割の先駆者はその精神を共有者に喰われている。そして、彼らは何食わぬ顔で、今まで通り奪い取った身体でもって生活を営んでいるのである。

 

 あなたは先駆者となる道を選ばないこともできる。それでも、この世界のどこにも安穏な地などというものが存在しない以上、あなたは、僕たち人間は常に生存するための戦いを強いられる。あなたは考えなくてはいけない。あなたは何を持ってこの時代を生き抜くべきかを。

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